2005.9.24-25
曇り/晴れ
ヘブンなリアル源流 みっちゃん
 
 
 昨日の夕まづめ釣行で歩いたら、痛みがちの弱っていた腰が妙に調子良くなってきた。 よし!予定通りに行くゾ!
 昼過ぎまでの仕事を終えるとすぐに山へと車を走らせた。  思えば2週間前、寸又渓輔さんと沢を詰めて稜線に出ようと計画したが、結局は釣りを楽しみまくってタイムアップ。 1日半では厳しい日程だが、遡行途中から尾根を辿り沢を下ればなんとかなると、来月の山行を約束。 しかし寸又さんの予定が詰まっているのを知った僕は、あっさりと約束を破棄しての今回単独山行。 ちょっと気後れこそするが、まだ漁期だし源流岩魚を釣って写真でも見せつけてやろうか...
と、腹黒い考えを廻らしつつ荒れた林道を走っていると、ガタガタガタッ・・・パンクした。 これは不吉な予感か、天罰か、一気に意気消沈。
 それでも一時間後にはすっかり暗闇の渓を歩く人となっていた。
 
 今宵のテン場に到着すると2人組が酒を酌み交わしつつ、すでに出来上がっていました。 挨拶をして少し話すと、とても人が良さそうな感じだったので宴の同席を願い出ると快くOKしてくれ、こちらが着替える間もなく、すぐに酒やソーセージ、味噌汁なんかを勧められた。
 
 

 
 岩魚と茸をブチ込んだ味噌汁はそのダシがよ〜く出ていて最高のご馳走です。 話すと、2人組のひとりは地元爺で、もうひとりの人は隣町の人で岩魚や茸とこの酒宴を楽しみに来たそうだ。 こういう思わず波長が合うような出会い、特に山での予期せぬ出会いなんてのは嬉しくなってしまいます。単独行では特にね。
 せせらぎのようにホトホトと揺らぐ優しい炎を囲み、長年の職業山人であるこの地元爺の山の話なんかを訊ね聞きながら、今宵も酔い酔い夜が更けていった。
 
 
 朝は未明から茶漬をすすり、星空の下をヘッドライトを照らして沢を遡り始める。 次第に渓景色が色彩をとり戻しつつ幻想的な変化を見せてくれる時刻である。 沢から森へと入る前に、しばらくの別れとなる流れの傍らでザックを下ろし、歯を磨いて茶を一服。  思えば、初めてここまで来たときには随分遠く離れた源流に分け入った感覚ではあったが、この沢に慣れるに従い今ではここまで戻ってくれば一安心の場所となっていた。
 
 

 
 本日の無事帰還を祈願し、朝靄残る沢景色をぐるりと見渡したあと、頂稜から派生する支尾根へと取り付き、森へと入っていった。 地図に記載のない不人気ルートの為、尾根上の安全で登りやすい場所を好き勝手に歩いていく。
 このルートファインディングってのは面白いもので、数人で好きな様に歩きまわると実に性格が現われる。広く見渡してルートを決める人、少し先までの足元の歩きやすさで行く人、なにかを探すように歩く人、前をいく人に便乗する人、他人を出し抜こうとする人・・・など様々である。
そのときの状態によって微妙にこれが変わってきて面白い。

 しかし今回は独りなので、茸や景色など自然の些細な変化を楽しみながら歩いていきます。
 

 
 高度2000mを超えてもなお、頭の周りをブンブン飛び廻っているアブがどうも煩わしくって仕方がない。耳鳴り症状のある人の苦しみが分かるような気がする。
 通り過ぎる白樺の背が低くなっていき辺りの山景色をグルリと見渡せるようになると、俄然意欲が湧いてくる。
 灌木帯を抜けそろそろ頂上付近であろうが、マイナールートに明確な道はない。 しかもここまできてラッセル、ラッセル。足を取られ掻き分けながらのハイマツ帯のラッセルだ。
 もちろん掛け声は、らっせら〜♪らっせら〜♪、ポーツマス!ポーツマス!、ニャー(猫)。 突然に視界が開けたすぐそこが頂上でした。 こうして景気付けに独り奇声を発していたものだから、頂に誰もいないことに安堵しました。
 
 
 

 
 
 この先の未知なる行程を考えると、無為に迷ったりのんびりとしている時間はありません。 パンやおにぎりを貪りながら、眼の前の景色と地図を照合しつつ慌しく南アルプス主稜線からの下降点を探して歩きます。
 見出した下降点、その先は足元に広がる脆い岩のガレでした。一旦転がれば、どこまでも落ちていきそうな気がします。 谷の側面に残る疎らなブッシュ帯へ逃げて降りようかとも思いましたが、それでは最初の滴を飲むことができません。 僕はバラバラと石を落としながら源頭を降りていきました。
 ほんの数分、少しばかり降りた所です。ガレからの流れは細いですが勢いよく噴き出していました。 まだ頭上のすぐ上に稜線が見えているのに不思議なものです。
 

 

生命感が希薄なリアル源流
 

ガレの孤島で一息
 ガレ場下降の緊張で喉がカラカラになったせいもあり、源頭での最初の滴は特に冷たくて美味しいものでした。降りながら頻繁に喉を潤していきます。
 綱渡り的なトラバースをして(横切って)、荒野のガレに緑色の孤島のようにぽつんと張り付く灌木帯に逃げ込み一息つく。 一望すれば足元から続く谷底は長くうねっていて、本当に今日明るいうちに車まで戻れるか不安になってしまいます。腕時計の機能にある高度計で見れば、まだまだ幾らも高度を下げていませんでした。
 
 ザイルの走行に際して“鋭角の空間”は恐いもので、走行に制動がかかるか、時には止まることがある。さらに鋭利な石が鋭角空間を成せばザイルを切断することだってあるだろう。
 今回は滝の落ち口に止まった2本の重なり合う流木が鋭角空間を形作っていて、それを認識していながら、僕は横着をした。 鋭角空間に石でも木でも突っ込んで鋭角を鈍角に変えてやれば良いだけの事だがそれを怠ったのである。
 ある程度の安定を確認した上で1本の流木にザイルを回しての懸垂下降。そのまま真っ直ぐに滝脇の泡へと降りれば良かったが、ここで欲がでた。 釣りポイントを荒らさないようにしたくって、振り子トラバースの要領で身体を振って岸辺へと軟着陸しようとしたのだ。 しかしそれが裏目にでて、ザイルを回した支点が横へとスライド。これでザイルは2本の流木からなる鋭角空間に滑り込んだ。 振り子動作によって首尾よく岸辺に着地できたもののザイルが走行せず回収不能となってしまった。 仕方なくザイルを伸ばして振ったり、角度を変えて引っ張ったりと淵で独り大暴れ。結局は釣りのポイントを台無しにしてしまった末にフリーで滝脇を登り、ザイル回収し支点を替えて、再び懸垂下降。 う〜ん鈍臭っ!
 そんなこんなで時間切れ。残念ながら今回は竿を伸ばすことはありませんでした。
 

 
 見慣れた渓相に出ると、ようやく残り行程時間に目途がつきホッとする。 ここで釣った、あそこを渡渉したと以前の遡行を思い返しながら下っていくと、早朝に歯を磨き森へと入っていったあの場所へとでる。そこは朝景色とはまた少し違った快活な表情をしていました。
 

 ようやく車に戻る頃には、再び闇が渓を支配し始めていた。
 
 

 
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