爆釣、危機一発!
  

 

 
 数年前、まだX沢の魚影が濃い頃だった。
当時、私達はリリースサイズを18cm未満と決めていた。 しかし結果は魚がスレていないこともあり、広い釣場では2人同時にヒットするダブルヒットやトリプルヒットすることさえあり、吉田・シンヤ・私の3人で18cm〜28cmをビク2杯半、30数匹程も釣り確保しただろうか。
 後で思えばリリースサイズの設定があまりに甘過ぎたと反省をしたのだが、我々のようなド素人軍団にとっては爆釣と言っても良い釣果であり、これに浮かれ喜んでいたのであった。
 PM2:00、、、私達3人はゴルジュ手前の通ラズで上機嫌のまま竿を納めた。 今思えば帰路は来たルートを戻っても良かったのだが、私達は横着をしてこの深いゴルジュの左壁を直登するルートを選んだ。
  
 ゴルジュの左垂壁は難易度5.9位に見えたので、まず私がトップでザイルを担ぎフリーで登り、続いてシンヤ、吉田とユマーリングで壁を登った。短い2ビッチで壁を越え、馬の背状の尾根に出た。このまま直登すれば林道に出て車に戻れるハズだ。しかし私達はまだこの頃、X沢の杣道を全て把握しきれていなかった。
 軟らかくフカフカした自然林の斜面は登り難く、喘ぎ、喘ぎ登って行った。そのうちシンヤのペースが遅くなってきた。膝にきたらしく、足を引きずって歩いている。

反省・・・
 
 しかし悲壮感は無くいつものバカ話をして歩いて行くと、植林された標高まで出てきた。しかしどんどん歩くペースは落ちて、足元のヒルの様なペースながらも、ジリジリと尚も登って行った。なかなか林道に出られないまま辺りが薄暗くなり始めてきた。
 「このままじゃ、ビバーク(野営)だなぁ」
 「ビバークしたら遭難騒ぎになるかなぁ?」
 「ヘッドライト点けて少しでも歩こう。」
 「ライト持って来なかったぞ」    「ええっ、?」

 「俺がシンヤを担ぐから、吉田は全部の荷物を持つか?」 
と、私が提案したが、吉田は無言で渋い表情をしたままうつろな眼で天を仰いでいる。
皆バテていて、引き続き3人でジリジリと登って行く。 もうヒルを振り払う余裕もなく、吸われ放題の血液バイキング状態である。 釣ったアマゴを私が担いでいたが、背中の魚の重さがこれほど恨めしく思った事はない。
きっと甘いリリースサイズの設定で多くの魚を殺生してしまった罰なのだろう・・・
この時、昔話の『舌切り雀』に登場する強欲で意地悪な婆さまと自分がタブって見えた。
 
それでもシンヤの口は達者で相変わらずのバカ話だ。
 「膝だけダメなんだなぁ、他は元気でビンビンなんだけど」
とボヤく。 暗くなり足元が見えなくなってきた頃、ようやく林道に出た。
 「あ゛〜っ」 思わず唸り、3人共大の字になって倒れ込んだ。体中にヒルが吸い付いたまま、星の輝き始めた夜空を仰いでいた。時計の針はPM7:00を回っている。陽の長い6月下旬の釣行の事であった。 この釣行で膝をガタガタにしてしまったシンヤはプールでのリハビリ、高草山・富士山での登山トレーニングを経て、この後のリベンジ釣行で見事に復活を果たした。

燻製
 

 



HOME  MENU