2003 釣行記 

源流独り尺八

 2003.5.25.  みっちゃん  


 結果から言ってしまうと、今回の単独釣行では尺(30.3cm)を超える岩魚が8本釣れた。
 尺物を8本といっても途中からは正確に計測をしていないし数えてもいない。7本だったかも知れないし、9本だったかも知れない。 だいたいで尺以上が8本位、うち4本が33cm以上(計測)であった。 釣果のみの報告であればここで釣行記はお終いだ。
 
 “源流” そこにはどんな景色があり、どんな魚達が棲んでいるのだろうか・・・源流マンの本能ともいうべき習性だろうか、自分の遡行歴の空白地帯を埋めたくなるのである。

 この季節、日照時間が長くなったこともあり日帰りではあるが軽い荷物で、自分がまだ未踏の源流域へと脚を伸ばしたくなった。 雲が厚くないこともあり、午前4時過ぎには慣れたルートを充分に歩ける明るさである。 毎度の寝不足ではあるが足取りも軽く快調に歩いていく。
 過去に何度も竿を出し、またそれなりの実績もある途中の好ポイントを横目で見送りヨダレを堪えつつも一直線に目標水域を目指す。釣師としては意外にこれが辛く難しいことなのだ。
抜群の渓相ではそれはもう巨大な魚の幻影が目に浮かび上がり、投餌ポイントと取り込み場所を反射的にイメージしてしまうのである。そんな場所を総見送りするのである。過去に多くの釣師達が源流を目指しつつもこのような行程途中の好渓相に捕まっては竿を伸ばし、最終目標水域に達することなく時間切れを向えたのかも知れない。 滝・ガレ場・ゴルジュ...等などの釣人を阻む地形的要因は数々あるが、この“好渓相と限られた時間”というのも先を目指す釣人を誘惑して止まない厳しい難関のひとつであろう。
今回の私の目的は、
1.地図上で確認した源流の枝沢出合まで到達。
2.あわよくば魚止めの確認。
3.毛鉤釣りを試す。
4.あわよくば40cmを越える岩魚を釣る。
・・・なのである。

 このように欲深く複数の企みがある場合には最優先の目標に向って策を講じなければならなく、その為に私は過去の最上流到達地点までは一切竿を出さないことを決めていた。
 山を登り、ガレをヘツり、ザイルで自己確保登攀、懸垂下降、振り子トラバース、ナメを這いずり、胸まで浸かっての渡渉・・・

 
それでも予想以上にスムーズにこの過去の最上流到達地点まで来れたこともあり、気分良く竿を伸ばした。所々に未だ残る雪渓の残骸が冬の例年以上に多い積雪を物語っていた。
 毎回の釣行でそうであるように、まずは1匹目が釣れないと落ち着かず、最初は慣れた方法で手堅い釣りをする。やや長仕掛けにミミズ餌が私のそれである。 ほどなくして7寸程の岩魚が釣れ、一安心。どんなサイズであっても1匹目は感無量である。ところがコイツの片目が白内障なのか白く濁っている。まさか病気ではないだろうか・・・ 全国各地に片目魚伝説があるように、今まで極稀にこのような片目の渓魚を見たことはあったものの、もし同一水域で頻繁に釣れてしまうようであれば病気を疑わざるを得ない。 ボーズを免れてホッとしたものの、私のなかに新たなる不安が広がっていた。  不安を打ち消すかのように私は沢を浅く広く快調に釣り上がって(浅川釣り)いくとピチピチと健康的な良型がよく釣れてくる。 どうやら私の心配は思い過ごしだったようだ。
 複雑な流れの淵では思いがけず複数の良型岩魚が釣れてしまい、嬉しい足止めとなる。
そう釣れ過ぎて先へ進めないのである(←コレ言ってみたかったぁ〜)。 このままのペースでは第一目的水域までの到達さえおぼつかないので、大淵であっても型狙いのピンポイント投餌で一匹のみを釣っての即移動を心掛けて釣り進んだ。
 人工物は遥か彼方に遠ざかり、登山道や杣道、目印やハーケン等もない。
わずかな身体的トラブルも許されない自然のド真ん中に独りぼっち。
 沢の流れ、空を流れる雲、ざわめく緑。
神の領域へと踏み込んでしまった気がした。
「何をしても良いんだよ、ただし生還できるかな?」
自然がそう自分に問い掛けてきているようだ。
 釣り上がっていくと徐々に獲物の型(大きさ)が良くなってきた。 泣き尺が釣れて、これが本日の最大かと思っていると尺物が釣れ、さらに31cm、32cm、そして尺一寸と小刻みに順を追って釣れる岩魚が大型化していく。 奥へ上流へ行くほどに魚影も濃く、さらに型も良く、まさに末広がりの勢い。
 ホントかよ〜♪ 自分の気持ちが浮ついているのがよく分かる。 浮き足立って最後にコケる・・・今までに何度もあった。
気を引き締めなくてはならん。
予定納竿時間の12時を過ぎても尚、竿を振り続け 33cm、34cmと立て続けに釣れて“このまま釣り上がれば40cmも”
 自分のなかのムクムクと肥大化する釣欲君。しかしこれを自戒し、残りあと一本だけと決意して竿を振った。
...が、しかしそれは本日最強の相手との闘いの始まりでもあった。
 本日最後を飾るにふさわしい好淵。この落ち込み脇の岩のエグレへと投餌し流し込む。
きた! グウ〜ン..
一旦はモソ〜っと浮上してきたが、次は一直線に岩下のエグレへと潜り、竿は一気にしなった。  この際に岩魚が回転して首やエラの辺りに釣糸が巻きついてくれれば糸の局所への負担が軽減するため、横着なヨレ糸使用のこちらとしては好都合である。しかし奴は潜りはしても回転はせずに頭を振る。針を飲み込んでいるのなら、きっと奴の鋭利な牙で針から少し上の辺りがキリキリと集中的に傷んでいることだろう。思わず糸の張りを緩める。
 たぷんエグレの奥深くまでは魚体を挟み込んではいない筈だ。 潜り込んだ岩陰へと続く釣糸を再度張りながら堪えてしばし待つ。 ズズズッ..モソ〜ッ..とした感触。エグレからは出てきたようだが、相変わらず奴は底をとっていて浮いてこない。
 こちらは水面まで浮かせたいのだが、奴はまるで水上から遠巻きにこちらを見ているかのように私の動きを察知して流れを捉えて動く。こちらの心を読んでいるかのようだ。頭を振って流れを捉えては潜る!泳ぐ!体力もさることながら頭のイイ奴である。
 私の背後(下流側)は階段状の滝場なので絶対に奴を後ろに抜けさせてはならない。そして渡渉困難な流心の向こう側の奴を寄せるには、どうしてもこの目の前の急流を横断させて寄せねばならない。当然、下流に走られたらお終いである。
 今、奴はこの流心と岩影の間の流れが渦巻く中にいる。私の若干足りない脳味噌もまた糠味噌の如く渦巻いていた。岩影に篭城するか、流心に乗って下流へと走るか...
奴も必死に考えているのかも知れない。
 恐らくこちらのヨレ糸は傷んできているだろう。このままの遣り取りが長びけば、こちらの不利である。 勝負だ・・・私は竿尻を肘に掛け直し、意を決して奴を流心へと導き入れる。 と、同時に糸の緊張をそのままに竿を前へと突き出して今までとは逆方向、つまり自分から奴を遠ざける方向である上流側へと竿を一気にしならせた。
 カヌーが船首を上流に向けパドリングをしながら流れを横断するように、同じ流線型である奴の頭を上流へと向けたまま流心を横断させようというのである。
 白い急流のなかの奴は上流に頭を向けたまま不思議なほどススーッとこちら岸へと寄ってきた。私はそのまま予定の浅瀬へと誘導し、体をうねらせて暴れる奴をタモで捕らえた。
 タモを覗き込みながら、ここでようやく自分の高鳴る胸の鼓動を感じた。 下手糞な私の粗末な仕掛けによって、久々に長い攻防の充実した取り込みとなり、それだけに釣った喜びも大きかった。
 
 この後、予定納竿時間を1時間もオーバーして目的水域に到達し、かろうじて最優先の目標だけを達成した。
 帰路はすでに葉が開いてきたタラの芽を採りながら、銀竜草を見ながら、赤飯を喰らいながら戻った...が! 途中、行きには無かったが見覚えのある“ベテラン釣師達のゴルジュ”つまり検問の網(?)に掛かってしまった。
もちろんこれが本日の遡行中の最難関であったことは言うまでもなく、最後は会話の激流に流されつつも渡渉したのだった。
 

 

 

 
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