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THANKS:Atnet Japan!
 
〜バカなが隊の逆襲

 
2002年7月28〜29日   浅川・私  
 
  
 先週はシンヤと私、2人揃ってボーズであった。
週末には必ず誰かが入渓している人気釣場ではあるが、そんな事で簡単に見切りをつけてしまう沢でもない。つまり懐の深い渓なのだ。
 ボーズを恐れない・・・というか懲りない私達。今回、私は強脚の浅川と一緒に性懲りも無く、先週と同じQ沢に土曜の夕方から入渓した。 車止めにはすでに3台の車両。
「もうどうにでもなれ」とばかりに構わず上流を目指して遡行をし杣道を歩いて行くと辺りは急速に暗くなり、ヘッドライトを照らしての山歩きとなった。 トレース(足跡)はあるものの、ライトが照らす足元のみの視界だけでは、途中のガレ場などバランスを崩し易く歩き難い。
目的のテント場に到着すると、やはり今週もすでに先行者3名が野営していた。
 「たくさん釣れましたねー」挨拶代わりに声を掛けた。
  
炭火の上には37cmを筆頭にした獲物が暖簾(のれん)の様にズラリと並び、テリテリと炙られて燻煙されている。
 「いやぁ、大きいなぁ〜」 「壮観だなぁ〜」
と先行者達に媚びるかのようにヨイショしまくる私達。
 「今日はどの辺りで釣りました?」 「明日は?」
と矢継ぎばやに質問したが、私達の腹黒いヨイショ作戦が見透かされたのか1名以外は意外にもノリが悪く素っ気無い反応であった。 それでも話にノッてきた釣人の手に冷えたビールを渡し、現状の情報収集をさせてもらった。 この日、私達は暗い流れ徒渉して、もう少し上流に足を伸ばしテントを張った。
 
 朝一番から山腹の道なき樹林帯に取り付くと、もう滝のように汗が噴出してきてシャワークライムでもしたかの様。 私も浅川も顔から首・胸元まで汗がキラキラと光っていて、エレガントではないけれどまるで叶姉妹のようだ・・・?
 先週出会ったヨーダ似のA釣師によると、沢へはこの尾根を越えて行くらしいのだが、予想外に尾根が大きくなかなか稜線に出ないので、逃げるようにして尾根先端側へと回り込んで渓へと入った。 浅川はもうグチり始めていて
 「今回もまたオマエに騙されたかな」
 「きっと今日は歩いて終わりなんだろうな〜」
などと言う。
見れば、浅川の顔はもう茹で蛸のように赤くなっていて相当にバカなが(胴長靴)内が蒸れているようだ。
  
 
 ザイルからぶら下がる様にして沢床にズリ降りて辺りを確認すると、どうも予定の渓相ではない。 尾根越えでゴルジュを大高巻きする予定が、どうやらゴルジュの真っ只中へと下降してしまったようだ。仕方なく嫌々濡れた滝脇に張り付き、ヘツリながら遡行していく。 数手先まで予測しながら手足を動かして進むが、もし次の一手を誤れば動けなくなるか滑落である。 いつもながら詰め将棋のような真の実力を問われる誤魔化しの効かない濡れ岩のヘツリは苦手である。
 
 「このまま遡行だけで終わるのは嫌だ」
 「せめて1匹だけでも・・・」
 と、ゴルジュ内で竿を振るがやはり魚信は無かった。
 なおも続く狭く薄暗い流れを嫌い、まとめて一気の滝越えを狙って大高巻き。
急なガレたルンゼをユマーリングで登り詰め、やはり急なガレを懸垂で降り、やっとの事でゴルジュ帯を突破した。

真夏でもバカなが姿
  

魚体にタッチしてね
 重めのオモリで丁寧に底を流すと、瀬尻で餌に喰らいついてくる。 25cm程で白斑がなく、着色斑と腹の色が薄いタイプの青色が綺麗な岩魚がよく釣れる。 私は川虫捕りに苦戦しながらも後から浅川を追っていくと、大岩の向こうでは浅川の硬調竿がこれまでになく大きくしなっていた!昼も夜もヌキヌキマンの浅川のこと、またコレも抜こうとしているのだろう。私が
 「待て待て、慎重にいけよ!」 「タモ持ってくからな!」
と叫んで大岩を越えていくと、すでに浅川は獲物を引き抜いてニヤけていた。
足元には大きく綺麗な源流岩魚が飛び跳ねている。丸々と太っているのでかなり大きく見えたのだが、メジャーを出し計測してみると31cm。でも立派な尺岩魚だ。 「ここまで来た苦労が報われたかな」と浅川は満足げ。
 釣場到着までてこずった分、釣る時間はあとわずかである。弁当なんか食っている暇はない。 釣人の気配のない源流の好渓相ですぐに竿を振り始めた。
 
 尚も、竿を持って遡行していくが、途中で私は竿で岩を突いてしまい竿先を折ってしまった。予備のリリアンのサイズが合わない位置で折れてしまっている為、その後はテンカラ竿に変えて振っていくも毛鉤が飛ばなかったり、飛んだかと思えば根掛かり・枝掛かりばかりで思うように釣りにならない。普段の練習不足のせいだろう。
 そのうちに浅川が本日2本目の尺物、32cm岩魚を釣り上げニンマリ顔。今回、釣り方も仕掛けもほとんど同じ筈なのに、私の川虫に喰いつくのは9寸までで、なぜか浅川のブドウ虫にはまた大物が喰いついてきた。
 「俺はもう充分だから」と余裕タップリで浅川は竿を押し付けるので、私はありがたく竿を借りてブドウ虫で釣ってみた。
 
 しばらく魚信が途絶えての好ポイント。 時間も時間だ、あそこまで釣ったら帰ろうと決めて竿を振った。 落込み脇の緩い流れ。 少し重めのオモリでジックリと待つ...クツクツとした感触があるが、ジッと我慢の子でアワセたくても合わせない。
目印がスーッと不自然な動きをしても、まだ合わせない。
 「飲み込め、飲み込め・・・・・・」 「もういいだろう」 
と軽く合わせると確かな手ごたえ!
 「きた!」 ピュンともう一発、強く合わせるがビクともしない。
 「確かに釣れてるハズなんだが・・・」 
目印はなおも流れとは不自然にゆっくりと移動している。
 
相当にデカいな...そう確信した私は
 「きたぞー!」「浅川のよりイカい(大きい)ぞー!」 と叫び、天へと大きく竿をしならせた。 が、魚体はまだ見えない。 上方へと近年にないほど強烈にしなってはいるものの、なかなか魚体が浮上してこない。
しばらくは何度も潜られては堪えの繰り返しで、徐々に魚体は浮いてきた。
  でた!デカい!
頭に“40cm”の数字がよぎる。両岸が切立った淵なので竿を横に寝かすことが出来ず、竿を立てたままタモを片手に近付いて行く。
奴は落込み脇の岩の下にその巨体を寄せてジッとしたままだ。
 そっとタモをあてがうようにして近付けた。 直径30cmのタモからゆうにハミ出すその魚体。改めて驚き、興奮し、喜んだ... 勝負は決まったかのように思えた。
と、その時! 一瞬、魚体が翻ったかと思うと、忽然とその姿は私の視界から消えた!
 
“どこだ? どこだ、どこだ!” キョロキョロと探し、糸の先を追っていくと奴は私の背後である下流側に回り込んでいた。
しまった! 慌てて竿を上流側へと寝かそうとしたが、もう遅い。
ビャーーーーーッ
 
奴は流れにのって下流へと走った! ヤバイ!
竿先は下流に向き、仕掛けは伸びていく。 私と奴とをつなぐ竿と糸が織りなす山なりの放物線はアッという間に一直線となり・・・
 
ふわ〜っ・・・  スローモーションのように糸が宙に舞った...  放心状態。
完敗だ。 絶望し、悲しみ、悔しい・・・  一瞬の壮絶なドラマは残酷な結末に終わった。
 反面、まだまだ南アルプスの源流にうごめく巨大な渓魚に興奮させられた喜びが今も尚、この手と眼にトラウマとしてしっかりと残っているのだ。 あぁ、あの手ごたえ。あの巨体。  また来るからな、アバヨ! 塩焼きサイズの4匹をビクに入れての帰り道は「あ〜、あ〜」と思い出しては唸り、独り言の連発。
 こうして私の心は急速に暗黒面(ダークサイド)に支配されていったのである。
つまり、“楽しむ釣り”から悔しさからくる“執念の釣り”へと傾いていったのである。
 帰りの車中でシンヤから電話がかかってきた。 浅川が本日の釣果報告をすると、
「本当かよ〜、お〜い」  この男の心もさらにダークに染まりつつあるようだ。
 つづく
 
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