ルート開拓

  2002年4月21日  私  

 
 今年はまだ岩魚を釣っていないので 「そろそろ岩魚を見たいなぁ」 と日曜の早朝に遠い山奥の源流へと車で向かったが、あいにく途中の崖崩れで通行止め。見ると、通行止のゲートを持ち上げ移動して突破してしまえば、崩れた脇をなんとか通れない訳でもない。以前の私なら強引に突破してしまっていたかも知れないが、しかしここは万が一のトラブルを嫌って素直に来た道を引き返した。
 向かった先は先週、ボーズ(無釣果)に終わった渓である。ヒルが出始める前のこの時期にやっておきたい事があった。 以前からここの林道から川床までのルートをもう一本欲しいと思っていたのである。
 
 普段は流れに平行して標高差600m程上を通る林道を利用し、上流・下流域へと降りて入渓していたのだが、ゴルジュの多い中流域へと繋がるルートに関しては、私達をはじめあまり利用する釣人はいないようである。 しかしこの中流域のゴルジュの隙間には忘れ去られたようなワサビ田跡があり、当然昔はここから林道まで人が歩いていたのであろうと想像できた。 “開拓”というと大袈裟であるが、今回はこのルートを模索しようという訳である。
 雨のなか私はワサビ田跡に最も近い下降ルートを歩いて川床に降り立ったが、すでに手・足・首・腰と5ヶ所をヒルに吸い付かれていた。 「ヒルなんてアマゴに食われて死んじまえばイイんだ」とばかりに強引にヒルをむしり取り、指先で弾いて水に流す。雨に濡れた肌の傷口からは血が流れでている。 「これが今、流行の“血液サラサラ健康ブーム”なのか?」 「違うか!」 ・・・と独りボケ&ツッコミ。
 目標とするワサビ田跡はこの下流に位置する為、沢下りとなる。・・・が折角ここまで来て、さらに降雨という好条件である。少しは釣りをしてみたい。 すぐそこのゴルジュの手前まで、40m程を釣り上がると、ポンポンと手の平サイズのアマゴが4匹。・・・この雨天のなか爆釣モードの予感がする。 
 
 「ルート工作なんてやめて、このまま釣り上がっていきたい」
そんな衝動にもかられるが、意を決して計画通りに沢を下ることにした。
 沢下りしながらも竿を振っていったが、一転して全く釣れなくなってしまう。 そりゃそうだろう、高い位置からの視点でポイントがよく見える分、魚からもこちらがよく見えているのだろう。しかも上流から私が何度も徒渉しながら釣り下って来るのだからなおさらである。 平坦で徒渉回数が少なくて済むような本流ならともかく、このような源流釣りではなかなか厳しい釣り下りである。私はゴルジュ手前で早々に竿を納め、沢下りに専念した。
 
 いつもながら雨のゴルジュはあまり気分の良いものではない。特にこの場所(写真右上)は高い両岸壁に挟まれ、淵が深く流勢があるので以前からバカなが隊泣かせのちょっとした通ラズとなったいた。かつてはここを泳いだり、右岸を攀じ登り空中懸垂で下降したり、左岸を無理矢理に直登してエスケープしたりと苦労したものだった・・・と感慨に耽っている場合ではない。雨は強く降りはじめ水量も増えつつあるようだ。 「高巻きルートを探さなければ」 私は今一度、戻り返してゴルジュの外へと出た。そして遠まきにゴルジュと山容を見渡し、弱点と思われる左岸ルンゼ(岩溝)に取り付いた。 手足を両壁に突っ張るようにしてガレたルンゼを登り詰めて、ラクダ背状の支尾根を越えると意外にアッサリと高巻くことが出来た。ここのゴルジュを抜け明るい渓相になると、ワサビ田跡はすぐであった。
 今もわずかに残るワサビを引き抜くと、美味そうな根っこを付けており、私はこれをザックへと確保して唯一のお土産とした。
 
 さぁ、ここからが目的のルート開拓である。すでに動き始めたヒルを避ける為、沢づたいか陽のあたり易い稜線上にルートを求めたい。私はワサビ田跡を登り詰め、支尾根の稜線を辿って登った。 やはり杣道なんてものは無かったが、降雨のためか涼しく、ヒルも見当たらず快適である。時々、後ろを振り返って景色を確認しながら高度を稼ぐ。歩き易いルートや不明瞭な稜線では樹に赤布を結び付けながら、地形と景色を眼に焼き付けるようにしていく。 自然林を抜け、植林された杉林まで来るとホッとする。昔、杉を積み出していた林道が近い証拠である。 春先には花粉をまき散らす古い放置杉を普段は恨めしく思うのであるが、今日のように未知の自然林を彷徨う不安からかこんな人工林でも頼もしく思えてしまうのだ。 なだらかな杉林を登り、高度計が川床から600m程を上がって来たことを示すと眼の前が開けて、ようやく林道に到着した。
 登ってきたルートを振り返り、今度はここを降りて行けるか少々不安になり、頭の中で何度もルートを思い浮かべ反芻しながら車へと戻った。
 
 この新ルートが私達にとって、どれほど実用的であるのかはまだ分からない。
しかしこれでバカなが隊はこの渓のどの区間でも、ゆっくりと日帰り釣行が出来るようになってしまった。 目印として付けた赤布もいずれ回収し、より一層、自然と魚を大切にしなくてはならない。
 
 *この日、バカなが別働隊の吉田とシンヤは陽が高くなってからM川に入渓するも、ボーズだったとのこと。
 

 
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