初物あがる

 2002年3月10日  私  

 
 今シーズン、未だ初物を釣っていない私は雪深いと思われる支流を目指し早朝から車を走らせた。まだ暗い山間地の道を行くと突然、目の前に人影が現れた。
驚いてブレーキをかけ車を停めてどうしたのか聞くと、道路が崩れかけていて通行止めだと教えてくれた。こんな早朝からご苦労な仕事だが、ありがたい。
 私は迂回路を通り南アルプスの懐へと春の荒れた林道を分け入って行った。
 途中で小便をしたくなったので車を降り、静岡の水源でもあるダム湖の縁に立ち、満天の星空を仰ぎつつ放水。ジョ〜♪ ヘッドライトの明かりのなかキラキラと放物線を描いて真っ暗な水面へと消えていく...爽快である。
 「尿療法ってのもあるらしいから、まぁイイんだろう!?」
と、バカな事を思いつつ独りほくそ笑む。
 なおも地雷を避けるように鋭利な落石の転がる林道上を縫うように蛇行していくと、しかしなんと...前方の道を雪崩がすっかり塞いでいるではないか!
 ここで私は少々迷った。
車を乗り捨てて先へと歩いて行きたいところだが、家族に提出してきた入渓届には昼から夕方までには帰宅すると書いてきたので
このロングアプローチによる丸1日釣行などは出来ないのだ。
まだまだ漁期は始まったばかり、ここで家族に心配を掛けて釣りを規制されてはかなわないのである。 空が薄明るくなか意を決して、長い距離をバックで引き返してUターン。来た道を戻り、入渓届に第2候補として記しておいた渓へと向かった。
 結局、4時間半ものなが〜いドライブの末に最も手堅く歩き慣れたX沢の下流域入渓点に辿り着いた。
先週の本流よりはずっとポイントも多く、例え釣れなくても運動不足の解消にはもってこいの支流である。
 すでに明るくなった川床への杣道ではあるが、新しい踏み跡もなく、ルート上には笹と枯葉が覆い被さって歩き難く迷い易い。
それでもまだ涼しく、ヒルが出てくるシーズンでないので楽である。
 
 川床にでると水量は少なく、この時期にしては積雪は全くなかった。とはいえ水温はまだ低いので流れの緩いポイントを狙っていく。
 すると落差のある落ち込み脇からギュルッとしたアタリ!
すかさず竿を合わせたが、魚体を見ぬ間にアッサリとバラしてしまう。私の今シーズン初アタリは初バラしで幕を開けた。
 “自分らしくてイイや” と独り苦笑いだが、
 “これでお終いだったら、どうしよう” と弱気にもなる。
 手に残った感触では、良型だったような気がしてならない。
『逃がした魚は大きい』とは、よく言ったものだ。 分かる、分かる・・・。
 
 心配するも間もなく、またもやギュルッとしたアタリが!
魚がまだ活性化していない今は、ピャーッと走らず、ギュルッとその場でもがくようである。 大きな獲物ではないが、記念すべき初物なのでタモを使い丁寧に取り込んだ。
23cmほどのアマゴ(写真上)はまだサビが残っていて、この沢の盛期の魚体には程遠いがそれでも例年の3月よりはずっと魚体の仕上がりが早いようである。 早速、記念撮影のため流れの緩い場所へ移動していくと、足元でこれと同型アマゴが逃げ惑っていて嬉しくなる。
 
 私が魚体撮影に夢中になっていると突然、後ろで
 バシャバシャ、ドドドドーーーッ と音がした!
ビックリして振り返ると、ほんの10m程の所をを巨大なニホンジカが爆走していった!サーッと鳥肌が立ち、あっ気にとられ一瞬身動きすら出来なかった。 慌ててカメラ片手に後を追ったが、私の視界にはもう鹿の姿は無かった・・・。 今年は鹿が多いとは聞いていたが、確かに足跡や死骸などの痕跡が多かった。
 私はこの感激の初物を釣ってから昼前まで、このポイントの多い渓を釣り上がった。
 
 最後は過去数々の逸話の舞台となったこの淵(写真左)で竿を伸ばすが突然、私のすぐ目前で鳥が水面に飛び込んでポイントがパー。
 結果、18〜23cmアマゴを10尾ほど釣ったところで竿を納めて帰路につく。
 川床から林道までは急登でジグザグな踏み跡を1時間ほど。
禁漁期の怠惰な生活でテップリと出っ張った自分の腹を恨めしく思いつつあえぎあえぎ登って帰った。

 唯一、持ち帰ったアマゴ(写真右上)は嫌味のようであるが、まだ初釣りをしていないシンヤに食べてもらった。
 

 
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