珈琲牛乳STREAM
1999年 春   吉田 浅川 私
 
 

 陽が傾きかけたころ私と浅川はS沢の林道に車を置きテントをいれたザックを担ぎ歩きだした。しかし5分も経たないうちに大雨が降りだし、とりあえず車まで走って戻りミーティング。 この日はロッジに避難し素泊まりする事に決定した。
 ザックに入れてあった藤枝の銘酒『杉錦』をオヤジに渡し、食堂に落ち着くと、 「明日はどこ入る?」「いつもはどこで釣る?」酒が進む程に周りのおじさん釣り師達の追及は厳しくなり、こっちもはぐらかすのに必死だ。 蛇の道は蛇、我々も釣り情報が欲しいから私は杉錦をここの管理人のオヤジにドンドン飲ませ、オヤジの部屋で得意のマッサージをしてやった。 この隙に気持ちよくなったオヤジから、まんまと釣り場情報を聞き出す事に成功した。

 翌朝、私達は他の誰よりも早く起きロッジを出た。まだ小雨が降る中、駐車場の車中でと弁当をかっ食らっている吉田と合流した。3人揃ったところで再度S沢へ。そこは案の定、コーヒー牛乳色の濁流で、目標水域まで竿を出さずに遡行して行った。 体重が重い吉田はバリバリと濁流の中を徒渉している。 と、その時、流れに足を取られ浅川の体がフワッと浮いた。1m下流を徒渉していた私が胴体をキャッチして支え、その場をしのいだ。
 水量が多いため途中から左岸をヘツる様にして歩き、目標水域までは竿を出さずに激流を遡行して行った。途中、片斜面のガレ場の下りで、浅川がザイルで宙ぶらりんになるハプニングがあったが、歩き始めて5時間後、なんとか目的水域に到着した。やっぱり水は濁っていたものの雨は止み、竿を振り振り釣り上がっていく。

 50mほど上がった所で、もうどうしても徒渉も巻くこともできない絶望的な爆流になっていた。しかしここで私が27cmのニッコウイワナを釣って初日を出した。「濁っていても、釣れるもんだなぁ。」  と今度は釣り下る。「魚も視界が利かないだろうからOKだろ。」 という事だ。 流れが速いのでポイントを絞り易く、緩い流れに餌をながす。ビビッ、浅川の竿がしなった!急流の中、尺級の魚体が踊り、水面でバシャバシャ している。浅川はいつもの5.4mの竿に0.3の糸だ!ポワ〜ン仕掛けが舞った...。    バレた...。浅川はしきりに悔しがり、私と吉田はクックックッ、と笑う。「イカかった(大きかった)なぁ。」と皆、自然と気合が入る。ビシッ、強烈なバカアワセだ!すぐに吉田も竿をしならせたが、獲物は急流にのってドンドン下流へ流され、同時に下流に走った!
 
こうなるともう手がつけられない。吉田は急流の中よろよろと下流に移動していく。私は自分の竿を放り出し、タモを広げて吉田の下流へ廻りこんだ! 吉田の腕も竿も仕掛けも伸び切ってもうダメだという時、なんとかタモですくい上げた。 
私と吉田はヒッヒッヒッ、とニヤニヤしながら岸に戻り、改めてタモの中を覗き込む。その魚体をみた吉田は歓喜し、腰を振り振り ホーストダンス! 体高のある32cmエゾイワナだ。浅川はさらに悔しがり、「それは俺がバラした奴だ!」と言い放ち、先へ先へと竿を振る。そう浅川だけはまだボーズ(無釣果)だ!小型のイワナと戯れながら釣り下り、彎曲した落ち込み淵まできた時、ついに浅川の竿が大きくしなった!
 
ギュイーン デカい!浅川の興奮がビンビンと伝わってくる。「おおっ、おおっ、」 と冷やかす私達。「尺だ!」「尺はイッてるぞ、バラすな!」と浅川にプレッシャーを与えるイワナらしく水面まではヌーッと上がって来たが、水面で大暴れし始めた!すかさず吉田がタモを広げて、取り込みに行くが流れが速く、イワナの暴れも凄い!もう少しで大イワナがタモに入るぅ〜と、いう時、ポワ〜ん  ん? 

 一瞬、時間が止まった。 仕掛けが宙を舞う、、、 バラした、、、。 浅川が赤い顔をしてヘナヘナとヘタれこむ。 すぐに私と吉田が笑い転げる。激流の音をかき消す程の大声で、腹がよじれる程に笑った。浅川はまだヘタり込み、天を仰いでいる。 その後、浅川が何度エサを流しても、再度ヒットする事はなかった、、、。
結局、遡行に手間取った為、3時間竿を出しただけだったがとても楽しめた。
帰路は来た道を戻ったが、増水の為に朝来たハズのルートが水没していた。右往左往した挙句、なんとかガレ場の水際を腰まで水に浸りながらヘツって車まで帰った。 この釣行後、技術と道具に限界を感じた浅川は6.1mの竿と0.6と0.8の糸を購入し、以前より大仕掛けの釣りをするようになった。
 

 
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